『悪夢』

霧の濃い夜だった。 
時計はまだ9時半を指しているのに人通りが以上に少ない。 
(霧が出てるからなのか?寒いな) 
そう考え事をしながら男はスーツの襟を立てた。 
スーツの襟なんか立てて格好悪いことはわかるが、今は寒さをしのぐのに仕方ないことだ。 
それに霧が濃いし、人だって歩いてないんだから。見られる心配もない。 
そう暫く歩いていると、濃い霧の中でコツコツと靴を鳴らしながら歩いてくる音がする。 
(あれは多分女だ。よく響いているしヒールが高いのを履いているな) 
男は首をつぼめながらヒールの音がする方向を目を細めながら進んで行った。 
ちょっとすると足首の細い足が見えた。 
(やっぱりな女だ) 
自分の勘が当たった事に一人で優越に浸っていると、その足音の主がすっと止まった。 
あまり気にしないで男はその横を通ろうとした。 
横目で足元だけを見ながら横を歩いて行くと、その足先は男が歩いてる方向にずれて行くのを見た。 
(俺が襲うとでも思ってるのだろうか?痴漢だと勘違いされても嫌だからサッサと通りすぎよう) 
男は足早に通りすぎると気のせいか先ほどの足音がついてくるように感じた。 
(気のせいだよな…。) 
後の気配が少し不気味に感じて駆け足になっていく。 
それと同時にまた後の足音も同じ駆け足の音に変わって行く。 
男は首筋に冷たいものが走ったように感じた。 
(とにかく明るいところへ…!!) 
「…ち…さい」 
男の耳にかすかに聞こえた声。 
恐る恐る振りかえると血走った目がすぐそこにあった!! 
「うあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 
叫び声をあげてみっともないとかそんなゆうちょな事を考えてる暇などなかった。 
早まる足と足音。 
「女の私に恥をかかせたわね!!」 
(俺が?恥をかかせた?いつ?知らない!あんな女知らない!!) 
「し、知らない!!お前なんかしらないよぉ!!」 
カラカラに乾いた喉がはりついてうまく声にならない。 
恐々振りかえると女の手が自分の肩をつかもうとつめを立てている!! 
シュ!!シュ!!横で空を切る音がした。 
男は足を速めるとその足音の主をまともに見た。 
ナイフを振りかざしながらフレアースカートの裾がひるがえるのも気にせずに物凄い形相で追いかける女を見た。 
(知らない!!あんな奴知らない!!) 
目にうっすらと涙が浮かぶ。 
「あっ!!」 
地面にたたきつけられた体から鈍い音がした。 
男は足首をひねっていた。 
 
 
 
女は笑っている。

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